街頭演説で、男は街宣車の上から有権者に呼びかけた。
「選挙は戦いだ。一票という武器を持ったあななたちの戦いなんだ」
大阪市の橋下徹市長の演説の一節のようにも聞こえるけど、これは浅見千秋という国会議員の演説である。といっても、池上遼一作画、史村翔原作の漫画「サンクチュアリ」の主人公。架空の人物だ。
1990年代に連載されたこの青年漫画は、民自党の長期政権による政治腐敗を、カンボジアの戦乱で家族を失った二人の男が改革するフィクションである。
もう一人の主人公、北条彰が暴力団の総長になり、裏社会から浅見を支える。
読み終えたとき、私は感動して泣いた。
それはともかく、現実の社会で「有権者の責任」を堂々と訴える政治家はまれだ。
というか、私自身は聞いたことがない。
大切な一票をくれる有権者に嫌われたら大変だから。
「あなたたちの責任ですよ」なんて誰も言いたくない。
でも、橋下市長は知事のときから一貫してそう言い続けている。
批判の多い政策を決めるときも、「僕を選んだ有権者の責任」と言ってのける。
それでも、「うっせえ、なに言ってんだ」と批判されない。
なぜか。
橋下市長は、有権者に「そうか、そうだったのか」と気付かせることが上手だ。
首長が政策を決めているという当たり前のこともそうだし、教育委員会があんまり機能していなかったということもそう。大阪市役所は職員の労働組合が力を持っていたということも、彼が教えてくれた(多くの新聞記者たちも書いてきたけれど)。
自治体の首長という責任ある立場の人が、本音ベースで政治を語ってしまう。
だからこそ、「変えましょう」という言葉に力がある。
彼は政治の素人だった。
それが知事になって大阪府庁に入り、政治と行政の現場に入ったとき、「これ、おかしくね?」という事柄につぎつぎとぶちあたった。
ふつうなら「ま、そういうものです、知事」と幹部職員にたしなめられて終わりだ。
だが、彼は「それはおかしい」と言いまくった。
当然、素人である有権者の共感を呼んだ。
で、有権者責任論。
これも当たり前のことを言っているにすぎない。
「今の政治のていたらくは、あなたたちの責任なんだ」
と彼は言っているのである。
だって、本当のことだから。
知事や市長にそう言われて、有権者は「ふむ、たしかにそうだ」と思う。
だって、本当のことだから。
そして彼は、「一緒に政治をよくしていきましょうよ」と、いざなう。
有権者は「そうだな、そうしようか」となる。
立場のある人が本音で語ることの効果を、彼は思うままに活用しているのだ。
ちなみに、サンクチュアリの浅見千秋は、物語のラストに首相公選制で首相に選ばれる。
これもまた、橋下市長の描くゴールと同じ。
と私はみている。
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